トゥーリー日記

フォトエッセー&ダイアリー

パチパチパチ、パチン、パチパチ

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 古いローカル線の駅を訪ねてみた。
 駅舎は木造、入ってみるとしん、、としていた。待ってる人なんていないからだだっ広い。
 窓口があって、改札口がある。改札口は木枠だった。
 今は無人駅らしい。だから何もかもが静止画みたいに見える。どこかの時間で置いてけぼりになってた。

 

 列車が来て、乗り降りする客があっても、みな窓口も改札口も素通りする。置いてけぼりは、まるでもうそこにないみたいに。

 

 むかしは改札口に駅員が立ってたんだ。窓口の向こうに駅員がいてきっぷを売ってたんだ。きっぷを買って改札口を通って、きっぷにパチンと鋏を入れてもらう。そういうふうにしていたんだ。
 今もきっぷを駅員が改札する駅はあるけど、鋏って入れなくなっちゃったね。日付印っていったらいいのかな、スタンプを押す。改札口の枠に立つんじゃなくて、事務所の中の改札側の窓口からきっぷを確認してね、そして、ペタン。

 

 そうそう、鋏を入れてた頃って、駅員はきっぷを切るときじゃなくてもずうっとパチパチと鋏を動かしてる人が多かった。パチパチパチ、きっぷを出して、パチン。また、パチパチパチ。
 文字にすると軽々しく見えちゃうな。本当はもっと重々しくて、どっちかっていうと、タンタンタン、タタン、タンタンタン──そんな力強さがある律動。
 改札口にはそんな音が絶えず響いてた。
 音はどこかの時間に置いてきちゃったんだ。